ああ、赤い曼珠沙華が咲いている。
在ったはずの真夏の暑さが、今年は妙に記憶に薄い-。けれど季節は秋に移っている。
畑の端の赤い列は、遠目にもツンツン先の尖った曼珠沙華。背景には比叡の山が間近くせまり、空は淡々とした初秋の色。
出町柳から貴船へとむかう電車に乗れば、この案内状が届く頃、今よりもなお赤々と列を成す曼珠沙華のある風景をご覧いただけることでしょう。
十月は、金憲鎬さんの今を、作品を通してご高覧いただきたく、ここにご案内申上げます。
先だって、一年おき、二年おき、点々と開催したこれまでの金憲鎬展の会場風景を思い出していました。初めての個展では、四階の小スペースにわんさかと、元気いっぱいとりどりの多用途碗が並んでいました。次の時には鉄銹びた板を壁に取り付け、その上にタタラ作りのグニャリと折れ曲がった板皿が置かれていた。オブジェのような筒状の掛花が壁につらつらぶら下がっていたのは何度目の展だったか…。
思い返せばその頃、金さん自身が、「茶碗です」と言って出品したものはなかった。たしか二〇〇四年の個展の折、ジャズやクラシック音楽を耳から体に入れて成形したという茶碗群が発表されたのでした。あれが金憲鎬さんの、最初の茶碗展だったと思うのです。
それぞれのかたちも、掻落し等の線の動きも、ジャズのリズムはそれなりに、クラシック音楽のものなら、「これはどの曲?」と想像をかきたてるたたずまいで楽しかった。その会場で、さまざまな茶碗のひとつずつを、大切に掌の中であたためるようにして見ておられたお客様の姿もよく覚えております。
その後〝家〟シリーズの展があり、そして今展です。もちろん茶碗はリクエストしています。いくつかの形が、成形を終えて棚板にあるのを過日見届けて来ました。
「やっとノッてきたから-、これからまだまだいっぱいやってみますよ!」と金さん。
楽の土の気に入ったのをテストしているとも。
そして今ひとつ。〝おいしい水〟をくれるオブジェが壁面を飾るようです。
「おいしい水がないと、おいしいお茶呑めないでしょ」
そう言えば…。
思いついたこのテーマを話す彼の笑顔は、電車を待つ駅のホームでさらりと頬を撫でて通った今日の風のようでもありました。
どうぞ見に来て下さい。
お待ちしております。
G.器館 拝
KIM,Hono
1958 瀬戸氏生まれ
1977 愛知県窯業高等職業訓練校修了、瀬戸の窯元勤務
1982 築窯独立