(薪窯による新進5人展)
不景気のせいか近頃は少なくなったが、やきものをすなる人が自作を見てくれと店にやって来る。飛びこみのアポなしの人もいる。だしぬけの訪問とはいえ、あいにく店にいるときは、心して応接せねばならぬ。通っていただくと、緊張し蒼ざめたような表情である。強気と弱気が同居したような様子である。もの言いである。そのような空気がこちらにも伝染して緊張してくる。若いころは、当方もつっぱったような気持ちで対していたように思う。気色ばんで迫ってくる人もいる。あなたはどこでやきものを勉強したのかと。勉強したらわかるのかと言い返す…。いろいろな人と作品に会ってきた。そしてたいていあとで反省するのである。矜持と不安がない交ぜになった相手の真摯さを思えば、こちらも感ずるところを伝えられずに悪かったと思うのである。言葉足らずというところか。とっさにうまく言えないのである。しかしながら、作る人は結局自分の作りたいものしか作らないだろうし、また作れないのである。そういうことでいいと思うし、そうであらねばとも思う。当方としてはそれを一瞥、心を鷲づかみにされるかどうかということの一事に尽きるのであろう。もっともそういうものとの出会いは非常に稀である。
一度外人がやって来て、どっさりと作品を見せられたことがある。筆者には閉口するようなものばかりだったが、言葉が通じにくいので、あれよあれよという間にせまいところに店を広げられてしまった。自分の気弱さにいやになった。そしてこれらはすべて薪窯で焼いたものだということをしきりに言う。言葉もお互い半解のまま焼成についての私小説的物語をいつ終わるともなく聞かされるので、しまいには片腹が痛くなってきて、薪窯で焼けばいいというものでもないだろう、というほどの意味のことを苦労して言ったら、得意気な顔がみるみる不快そうな表情に変わっていった。いや哀しそうな顔だったかもしれない。そしてあとでまた自分の狭量と言葉足らずを反省するのである。こういう人は愛すべき人なのかも知れない。もの作る人との初対面は、向うも真面目こちらも真面目なだけに、どこか商売といったものを離れた、なかなかにむつかしいものがある。
ところで薪窯を焚いているときは、一種のトランス状態になることがあるという。火を前にしての、その身体的作業は、消耗と快感の入り交じったものなのだろう。ゾロアスター教ではないが、えんえんと薪をくべ続けるうちに、なにか祈りにも似た心持がしてくるのではないか。それもいいだろう。窯の神は畏れるべきである。しかし、やきものも人が作る立体の造形である以上、本質においてそれは自意識の産物である。トランス状態を味わうとしても、底のところでは一貫した覚醒した自意識を手放すべきではない。しかしこのことはしんどいことだろうとも思う。だから苦しまぎれに、もうろうとした自己と自意識を窯内へ流し込んでしまう。確乎たるヴィジョンの無さと自作に対する心許無さがそうさせるのかもしれない。偶成に頼り、寄りかかり過ぎてしまうのである。そうして窯から出てくるものといえば、一も二もなく窯の神に帰依したような相貌を見せて出てくるのである。それらのいかに多いことか。窯の神はうやまうべし。しかし自己を放擲してまで拝跪すべきものではないと思うのである。
今展の五人はいずれも三十代二十代の若手である。窯内にうずまく炎、自然というものに密接し、そこからなにか美しきもの、あるいは一篇の抒情詩ともいえるものをどうか自らの若い力でゲットしていただきたい。窯の神との、対決のあとの和解といったものを見てみたいと思う。
若い順に今展出品作家の名を列記すれば、松本治幸、安永正臣、福島一紘、デレックラーセン、かのうたかお、この五人の作家たちである。Fire!
葎
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松本治幸 Haruyuki Matsumoto
1983 鳥取県米子市生まれ
2004~20006
韓国ソウル大学陶磁文化デザイン科在籍
2008 京都精華大学芸術学部造形学科陶芸専攻卒業
2010 同大学大学院芸術研究科陶芸専攻修了
安永正臣 Masaomi Yasunaga
1982年生まれ
2010 滋賀県陶芸の森のイッテコイ窯で灰釉を焼き始める
2011 三重県伊賀市山畑にて薪窯を築窯
福島一紘 Fukushima Kazuhiro
1981 三重県伊賀市丸柱生まれ
2004 京都府立陶工高等技術専門校卒業
2005 岐阜県上矢作にて鯉江良二氏に付く
2006 米国加州エルクバレーにて研修
2010 自宅に新たに穴窯を築窯
デレックラーセン Derek Larsen
1975 米国カンザス生まれ
1998 カンザスにて最初の穴窯をつくる
2000 カンザス大学デザイン学位取得
2003 豪州サザンクロス大学にて穴窯についての修士号取得
2004 カンザスにて二つ目の穴窯をつくる
2005 国民陶器教育機関 陶磁器芸術賞受賞
2006 中央ミズーリ大学芸術専門教授
2010 滋賀県陶芸の森アーティストインレジデンス
2011 愛知県柿平に穴窯をつくる
かのうたかお Takao Kanou
1974 京都生まれ
1998 京都精華大学美術学部造形学科陶芸卒業
アフリカニジェールへ陶磁器指導のため渡る
2002~
個展、グループ展多数
2008 第8回国際陶磁器展美濃 銀賞受賞