ここのところ女性の若手作家の傾向には目を見張るものがあります。瞠目(どうもく)というやつです。たとえば装飾が装飾を呼び、とめどなく増殖していくような作風。非常に細密でデコラティヴな仕事。あるいはゴチックな様子。これらを概評して女性的、手芸的と見る向きもあるようです(筆者も含めて)。しかしながら見渡せば、これは陶によるシュールな一大展開を見せているようにも思われます。その主役が若い女性作家たちということです。見るべき作品、個性才能があちらこちらに散見されるのです。集めれば一団となるでしょう。
才能というものは、時代によるのでしょうか、えてしてまとめて出てくるものです。といっても、彼女たちがこの今の時代をどのように感覚しているのか、そこのところはよくわかりません。それを聞いても困惑されるだけかもしれません。彼女たちはただ個々にトランス状態のようになって作業に没入しているように見えます。ただ、この時代に惹起している出来事は、シュールレアリスムも裸足で逃げ出すようなことばかりのように思われます。何かそのへんのところを彼女たちは本能的に嗅ぎ分けたりしているのかもしれません。それが彼女たちの作品にどう映し込まれているのかと問われても困りますが、しかし人はなにかに影響されざるを得ない存在です。その最たるものが時代でしょう。人は時代に流されます。乗り遅れまいと必死になります。溺れる人も数知れず。時代は人を生殺与奪します。筆者は、彼女たちにしても、この自分たちの時代に呼吸しながら、受容とか抵抗、反動、あるいは厭離(えんり)といったものかもしれません、そういったものが心の中にうず巻いているのではないかと見ています。
ところで時代のことはさておき、今展の新宮さやかの作品には単純に目を驚かせるものがあります。冒頭、目を瞠(みは)るといいましたが、瞠るとは、なにかを見て、大なり小なりショックを受け、目がまん丸になるということでしょう。そういう意味で彼女の仕事は、まず人の目を驚かせるに足るパワーを発散しています。目を瞠る…。目を瞠って、これは一体何だろうとか、いったいどうして、これはこうなのかという問いがそこに発せられるわけです。作品にもそういうインパクト、アイキャッチ的な存在力といったものが必要だと思います。見物にただ通りすがられては、その後のことは何も起こらず、それなりけりということになってしまうからです。見物の理解を同情を得るには、哲学がそのはじめにまず驚きあやしむ心を要求するように、作品にもまず人をして立ち止まらせ、瞠目刮目(かつもく)させる何かが具わっていなければと思います。もちろん浅薄な、奇をてらっただけというものでは困りものですが。
新宮作品には、花芯というか触手のようなものが、おそらく千本単位でしょう、さわさわと動いているかのように植え込んであります。一本一本手で尖らせながらの作業で、一気の仕事だそうです。ごく細いので数秒で乾燥してしまうそうです。筆者はこの情熱を多としたいと思います。そして完成品は抽象を盛り込んで成功していると思います。世の常をいえば、近年のこの若い女性作家たちによる現象も一過性のものでしょう。しかしこれも時代の影響によるものかどうか、なにかの因果律というかベクトルが働いてのことだと思います。たとえ過ぎ去ったとしても、その後十年か百年かはわかりませんが残るものは残るのでしょう。そして新宮さやかと作品がその資格と力を有するかどうか、これまた未来のことゆえわかりませんが、大いにその可能性を秘めた人だと思っております。何卒ご清賞を賜りますようお願い申上げます。-葎-
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SAYAKA SHINGU
1979 大阪府生まれ
2001 大阪芸術大学芸術学部工芸学科陶芸コース卒業
2003 滋賀県立陶芸の森創作研修館
2004 朝日陶芸展入選 (07)
2008 京都工芸ビエンナーレ入選(京都文化博物館)
個展
2005 ギャラリーマロニエ (京都 06)
2007 立体ギャラリー射手座(京都)
2010 NAXガレリアセラミカ(東京)
シルバーシェル(東京)
Gallery Suchi(東京)
2011 INAXライブミュージアム
2012 ギャラリー揺(京都)
ギャラリー器館(京都)
2013 Gallery Suchi(東京)
ギャラリー器館(京都)
2014 EN陶REZ(神戸)
2015 ギャラリー器館(京都)
グループ展
2008 わかもん展(陶彩・東京)
2010 東京コンテンポラリー・アートフェア(GallerySuchi ブース・東京)
2011 「りったいぶつぶつ展」(渋谷Bunkamuraギャラリー・東京)
THE OSAKAN DREAMS(JR大阪三越伊勢丹・大阪)
陶芸の領域にある表現(YODギャラリー・大阪)
陶芸展「以美為用」(京都高島屋・京都)
+PLUS ジ・アートフェア(Gallery Suchiブース・東京)
名古屋アートフェア(Gallery Suchiブース・名古屋)
三者三葉(YODギャラリー・大阪)
Synchronicity 陶による共時性(京都高島屋・京都)
やきもの新感覚シリーズ(愛知)
2012 アジアトップギャラリー・ホテルアートフェア香港12
(Gallery Suchi ブース・香港)
京都アートフェア(Gallery Suchi ブース・京都)
第七回パラミタ陶芸大賞展(三重)