今回で新宮さやか三度目の個展となります。彼女は自身の創作主題を堅持しながら洗練と向上を見せつつあります。重ねて個展をお願いする所以であります。彼女が作品でもって云わんとするところは、つづめて言いますと、花というこの世で見られる題材を抽象して、みるみるうつろいゆく有情の世界の一瞬を固定化し、永遠の世界の感触のようなものを視覚に訴えかけたいといったところでしょうか。彼女にしたらご大層なと、筆者の勝手な見方ではありますが、彼女のこれまでの仕事を見てそう思うのです。
時間というものを、私たち人間は、急流のごとく流れ去るものとして不承ながら受け入れていますが、その一刹那のそのまた一刹那となると、はたして動いているものなのかどうか、不思議な気がして、わからなくなってきます。むかしの人は花の色は移りにけりなといいましたが、花も刻々、その刹那刹那の相を見せます。生成の律動と清浄な美を感じさせますが、登りつめてピークに達するのはやはり開き切ったその刹那でしょう。そこを回帰点として、花は土へ戻ろうとする動きを動き始めます。生と死の分岐点のようなものでしょうか。花が持てる生命力をピークに持っていくとき、すなわち開き切ったその刹那、時間が止まるかのようにして美の固定化が行われ、そのとき私たちは神に接するの思いさえして永遠の相を垣間見るような経験をするのでしょう。そのような経験を経験とすることのできる感受性は、人間の善なる部分だと思います。驚きとか畏れとか、宗教的というものではなくて、なにか私たちの存在を超える何ものか、イデア的な美とか善に感応して、自らの卑小さ、どうしようもなさを知り、その上でそのような上善の価値に憧れ近づこうとする心を持つことが根本的に大切なことのように思ったりさせられます。
昨今の、しきりに無辜の民まで殺しまくり追い立てまくる宗教的ファナティシズムは前代未聞の観を呈しており、あれは行くところまで行くでしょうが、ああいった悪は一体どこからくるのか、貧と教育の問題が大きいのでしょうが、よくわからないところがあります。ただ仕組まれた巨大な悪に巻き込まれている人間の悪魔的な部分が奔出している図に見えます。とかく昔から宗教がからむ殺し合いには、皆殺しにせずにはおかぬものがあって、ミスリードされた信仰の恐ろしさを今また目の当りにしているのでしょう。しかし彼らが殺してし已まむといった狂気に奔走し、殺し終わったあと、殺し疲れて我に返り、自分が信じた教祖と原理主義が、唾棄すべきデマゴーグでありデマゴギーであったことに気づいたとしたら、そう気づく人間性であったとしたら、もはや彼は残りの人生において正気を保つことは無理なのではないか。その苦しみは彼を亡ぼすでしょう。自分がおそろしいことをしたと知る、その自知によってです。誰か、彼はそうあらねばならない、そう思いたいと思います。
話がまた逸脱しましたが、写真の作品は、この角度から見るとオブジェのようですが、器のかたちを取っております。〝萼容〟と命名され、萼はガク、あるいはウテナとも読みます。蓮のウテナの上のお釈迦様というときのウテナです。どこかあの中川幸夫の生け花に通ずる風情を感じさせます。ギュッと凝縮したような様子は、全ての本能的エネルギーの本体という意味でのリビドーのかたまりのような印象です。それを表象する花のつぼみのようでもあります。後方から花萼が収斂して集まるところには、彼女が得意手とするピンの植え込みが見られます。彼女独特の表現ツールです。狭いところに千本近くはあるでしょう。立てず寝かしてありますが、これがあたかもこれから起き上がってくるような気配です。まさに花卉を借りて、生命の律動とそのメタモルフォーゼの一瞬を捉え得ているのではないでしょうか。つらつらものぐるおしい拙文を書き連ねましたのはこの作に触発されてのことであります。何卒のご清賞をお願い申上げます。
葎
SAYAKA SHINGU
1979 大阪府生まれ
2001 大阪芸術大学芸術学部工芸学科陶芸コース卒業
2003 滋賀県立陶芸の森創作研修館
2004 朝日陶芸展入選 (07)
2008 京都工芸ビエンナーレ入選(京都文化博物館)
個展
2005 ギャラリーマロニエ (京都 06)
2007 立体ギャラリー射手座(京都)
2010 NAXガレリアセラミカ(東京)
シルバーシェル(東京)
Gallery Suchi(東京)
2011 INAXライブミュージアム
2012 ギャラリー揺(京都)
ギャラリー器館(京都)
2013 Gallery Suchi(東京)
ギャラリー器館(京都)
2014 EN陶REZ(神戸)
2015 ギャラリー器館(京都)
グループ展
2008 わかもん展(陶彩・東京)
2010 東京コンテンポラリー・アートフェア(GallerySuchi ブース・東京)
2011 「りったいぶつぶつ展」(渋谷Bunkamuraギャラリー・東京)
THE OSAKAN DREAMS(JR大阪三越伊勢丹・大阪)
陶芸の領域にある表現(YODギャラリー・大阪)
陶芸展「以美為用」(京都高島屋・京都)
+PLUS ジ・アートフェア(Gallery Suchiブース・東京)
名古屋アートフェア(Gallery Suchiブース・名古屋)
三者三葉(YODギャラリー・大阪)
Synchronicity 陶による共時性(京都高島屋・京都)
やきもの新感覚シリーズ(愛知)
2012 アジアトップギャラリー・ホテルアートフェア香港12
(Gallery Suchi ブース・香港)
京都アートフェア(Gallery Suchi ブース・京都)
第七回パラミタ陶芸大賞展(三重)
2013 LA CERAMIQUE JAPONAISE(パリ)
2014 美の予感(髙島屋巡回展)