水挽き(ロクロ成形)が、これだといった具合にイメージ通りに決まったとき、立ち上がった直後の陶磁の姿かたちはみずみずしくも美しい。土と水が親和しながら融合しているようである。それは初めてこの世に現れ出でたといった新生の様子である。富本も八木も、水挽き直後のやきものの姿が一番美しい、これ以上何をか為すべき、というようなことをいっている。このまま一指も触れず、留(とど)め置いておきたいと思うときがあるのだろう。しかしそうもいかない。土を素材とするやきものは、終始さらなる技術とプロセスを作り手に要求してくるのである。
だいぶ前だが、現代陶芸の重鎮、柳原睦夫とこんな話をした覚えがある…。やきものは焼かれて一旦殺されるようなものだ。そしてやきものは、その死を超えてさらなるエロースの高みにまで昇華されねばならない。いろんなプロセスを次々と加えられたのち、最後の焼成における死を超克して、なお芸術を謳う作品として成立できているかどうかが問題だ…。やきものにとってはむしろそのエピローグが肝心なのだ、といった内容の話だったと思う。
やきものはまさしく自然からの賜物である。それは私たち人間もやきものと同じようなものである。やきものも私たちも、有機たるを無機たるを問わず、いわば自然万象のさまざまなものの死を生きてこの世に存在しているのである。お蔭を蒙っているのである。人間ほど自然のおびただしい死を恣(ほしいまま)にして生きている存在はないだろう。そのおびただしい死に私たちは等価しているだろうか。そろそろこういった私たちだけに許されてきた特例というか目こぼしは、期限の利益を失いつつあるのではないか。驕慢(きょうまん)にも、地球に、環境に優しい何々とかなどとい言っている場合ではないのではないか。
まあしかしそれはさて措き、思うにやきものは、陰陽五行にいう木・火・土・金・水の五つのエレメンツにイメージ的にもぴったりと来る。これらの五元気は、そのままでは根本において相容れない対立物ではあるが、しかし対立しながらも互いに相まって〝生成〟がなされるのは、五つのエレメンツが、互いに互いの生死をやり取りするからである。すなわち生成とは、対立物の間で等価にやり取りされる生と死が交錯するうちに、対立がついに転化されて結果する出来事だと思われる。やきものの制作でいえば、土が水の死を生き、水が土の生を死んでプロセスの第一歩を踏み出す。それから次々と木火土金水は、互いに他の死を生き、他の生を死ぬといった矛盾ともいえる過程を辿りながら、やきものという一個の美の調和へと結実していくのである。ここにおいて木火土金水は、本質的に対立物でありながら、互いに同一であり、矛盾は一体物へと転化されるのである。
今展のデレックラーセンは、米国のほぼ中央に位置するカンザス生まれのアメリカ人である。弊館では今回で三度目の個展となる。これもまたいろいろな縁が働いてのことと思うが、外人でこれだけ回を重ねたことはない。その訳は単純で、やはり作品がものをいっているからである。微妙な色合いが画像では残念ながら出ていないが、写真の信楽耳付花入は、もの侘びて清浄であり、焼き抜いて、見事に自然の景を映し込んでいる。その景には抽象がある。薄手である。指で弾けばキンキンと音がする。力とデリカシーが同居している。これをものするラーセンの美意識に、変な物いいだが、外人離れしたものを感じてしまうのである。それは欧米人らしからぬ自然観といったもののように思う。
焼〆陶のなかでも伊賀信楽の類は、わが国独特のやきものである。それは自然に最勝の価値を置く思想から生まれたものであろう。すなわち自然よりも上位に神を措定する世界観ではなく、自然のなかにそれを見る価値感である。陰陽五行説などはすぐれて東洋的な思想で、自然万象の生死の交錯と流れのなかに、真理とかイデア的な世界調和を見ようとする。そういった思想とか、私たち古来の宗教観なしに、伊賀信楽のようなやきものは出て来なかっただろう。悠久に、瞬時も絶えることなく繰り返される、この世界の生と死の等価的な交錯。そこに生成が発生するのである。やきものも同じだということである。デレックラーセンは、木火土金水相互の目くるめく生死の交錯を、我が目でしっかりと見据え、その調和的な生死的転化を、やきものへと映し込むことのできている作家のように思われる。
とはいえ、以上の条々をラーセンに苦心惨憺、英語に訳して言って聞かせても、ちんぷんかんぷん、何いってるんだこの人はといった顔をされるのかもしれない。しかしそれでいいのである。彼の作品がものをいって、筆者をして以上のような、ものぐるおしくもよしなしことを思わせたのであるから…。-葎-
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デレック ラーセン(Derek Larsen)
1975 米国カンザスで生まれる
1998 カンザスで最初の穴窯をつくる
2000 カンザス大学 デザイン学位取得
2002 オーストラリアでダニエルラファティをアシスタント
穴窯をつくる
2003 オーストラリアサザンクロス大学にて穴窯
研究での修士号取得
2004 カンザス ジョンソンカントリー短期大学
陶磁器専門教授になる
2004 カンザスで2つ目の穴窯をつくる
2005 NCECA Biennale Prize
国民陶器教育機関 陶磁器芸術賞受賞
2006 中央ミズーリ大学芸術専門教授になる
2010 滋賀県立陶芸の森にてアーティストインレジデンス
2011 愛知県柿平に穴窯をつくる
2012 第5回現代茶陶展入選
2013 個展(京都・ギャラリー器館)
2014 個展(京都・ギャラリー器館)
2015 植葉香澄と二人展(東京・柿傳ギャラリー)
その他個展各地にて多数