本年の掉尾(とうび)をかざっていただく村田彩さんの個展であります。初回が一昨年でした。今回が二度目となります。再びお願いするということは、彼女の作品に惹かれ、評価しているわけでして、長く継続して作品を見ていきたいということでもあります。享受側とのこのような関係は、まず偶然あるいは意図された出会いがあって、作品に打たれるものを感じて、その人の考えとか人とナリにも惹きつけられてといった、そういったことをひっくるめた縁のようなものが働いて成り立つ関係なのでしょう。作家との、たとえば彼女とのこのような関係は、なかなかに得がたい縁なのです。そしてもちろん願わくはこの縁かの縁、永からめと思うものなのです。
思うに縁というものは、うすくなったり濃くなったり、近づいたり遠ざかったり、切れたりまたつながったりするものなのでしょう。仏教で縁起、因縁といいますが、まこと不思議なものがあります。縁というものは人生の幸不幸を決定づけることがあります。この世には、たとえば親子の縁など、切れる縁と切っても切れない縁があると思いますが、しかし出家ではないですが、人はときに現在過去のすべての縁を断ち切ってしまいたい衝動にかられることもあるのではないでしょうか。縁とは、執著(しゅうじゃく)を生むものであり、人を翻弄し、振り回すものでもあるように思われます。ありがたい縁とありがたくない縁があるということでしょう。しかしまあそれも自業自得で、すべてはおのれの我執というか悪心が引き寄せるものなのかもしれません。結局人というのは、因縁の海を迷い泳ぐ盲亀(もうき)のようなものなのかもしれません。縁によって生かされ救われたり、縁によって殺されもする存在なのでしょう。
しかしながら、筆者などは、仕事に関していえば良き縁に恵まれていたほうだと思います。もの作る人ならまじめな人に決まっています。性(しょう)善なる人に決まっています。なかにはややこしくて厄介な人にも遭遇しますが、やっぱり根本で真摯なのです。彼ら彼女たちは、ものを生すという悩ましさのなかにあって、なにか善きもの、美しきもの、真にせまるものに憧憬を抱き、それを追い求めている人たちだからだと思います。今展の村田彩さんもその一人だと見ております。だから筆者は、よほどの悪縁にさらされることもなく、ありがたくも良き縁をこれまで被(こうむ)ってきたように思われるのです。もっとも先方にしてみればそうでもなかったのかもしれませんが…。
村田彩さんの作品は生命力と美が共存しています。行動範囲も海外にまでおよび、一所懸命に作っておられます。その姿勢は、野心といったものではなく、ただ私の作っているもの、私の世界を見てほしい、そして理解してほしいといった真摯で、いっそ健気(けなげ)なものを感じさせます。健気という言葉を使いましたが、練上手という手の込んだ技法を用い、困難な造形を志向している彼女をみると、もちろん作品がものをいってのことですが、またまだ新進と言える売出し中ということもあり、筆者は彼女の健気さに打たれるのです。作家として常に立ち続けることは、困難なことであり並大抵のことではありません。精神においてもその日常においても、不安という長い薄暗い雲を見上げながらの日常だと思います。しかしそれでも、だからこそ、その雲間に垣間見えるものだってあるはずです。そこに希望とか、ものを生せたときの達成感、そしてそれが享受されたときの歓びが対価として保障されてあるのだと思うのです。
写真の作品は100%磁土です。なにかが蝟集して一つの生命体をなしているようです。彼女にとっての花なのかしれません。まず一片一片の花弁その他のパーツを作り、施釉して本焼きしておきます。そしてそれらを支持する中心の球体を作ります。こちらは陶土を使います。施釉しますがこれはまだ焼成しません。これに花弁などのパーツを突き刺していくのです。突き刺しながら全体のフォルムを決めていきます。そして仕上げの本焼成です。磁土のパーツのほうはすでに焼いてあるので縮みません。陶土の支持体は、当然収縮します。この収縮と、焼成による釉着によって、全ピースが小ゆるぎもなく固着するわけです。キレや崩壊が起こらないように考えられた、一見乱暴に見えますがユニークで緻密なプロセスだと思います。磁土であること、薄手に作ってあることにより、浮遊感と透明感、さらに清浄感をまとったたたずまいを見せています。淡いカラーと紺釉とのコントラストが効いています。赤い種子のように見えるものが、再生と循環を示唆しているようです。彼女のこの作、かのエロース神が嘉(よみ)するところの、美と不死(永遠性)を黙示しようとしているかのように思われるのです。何卒のご清賞を伏してお願い申上げます。
末筆にて御免蒙ります。本年はいろいろと大変が続きましたが、皆様ご健勝によいお年をお迎えくださいませ。-葎拝-
Aya MURATA
1979 京都府生まれ
1998 京都市立銅駝美術工芸高等学校漆芸科卒業
2000 京都芸術短期大学陶芸科卒業
2004 京都府立陶工高等技術専門校陶磁器成形科終了
【個展】
2004 個展(京都)ギャラリーマロニエ
2011 個展(台湾)新台北市立鶯歌陶磁博物館
2012 個展(東京)SILVER SHELL
個展(東京)INAXガレリアセラミカ
2013 個展(東京)彩鳳堂画廊
個展(台湾)DER-HORNG ART GALLERY
2016 個展(京都)ギャラリー器館
2017 個展(京都)ギャラリーマロニエ
【コンペティション】
2008 第8回国際陶磁器展美濃入選
2009 The 5th World Ceramic Biennale 2009 KOREA (韓国)入選
2011 第9回国際陶磁器展美濃入選
2014 第10回国際陶磁器展美濃入選
2018 京都府新鋭選抜展京都新聞賞/京都文化博物館
【招待展】
2012 「ふしぎ!たのしい!ゲンダイトーゲイ 親子でめぐるやきもの図鑑」茨城県陶芸美術館(茨城県)
2013 特別企画展「アーティスト・イン・レジデンスの20年のあゆみ」滋賀県立陶芸の森陶芸館(滋賀県)
2014 「現代陶芸現象」茨城県陶芸美術館(茨城県)
【ワークショップその他】
2010 国立台南芸術大学にて客員作家(台湾)
2010 滋賀県立陶芸の森 スタジオアーティスト(滋賀県)
2011 新台北市立鶯歌陶磁博物館 レジデンスアーティスト(台湾)
2014 Arich Bray Foundation レジデンスアーティスト(USA)
2017 Guldagergaard レジデンスアーティスト(デンマーク)
2018 Arctic Ceramic Center シンポジウム(フィンランド)
2018 Clayarch Summer International Ceramic
Workshop 2018(韓国)