松本治幸(はるゆき)。当年三十六。鳥取県生まれ。2002年京都精華大学に入学するも、二回生のとき、将来復学するつもりで精華大学を退学して韓国国立ソウル産業大学陶磁文化デザイン科に留学。ここを卒業するつもりだったが、退学留学の場合、復学の猶予期間が二年ということをあとで知り、やむなく韓国のほうは中途で切り上げて精華大学に戻っている。休学ということで韓国に行ったらよかったのだが、そうなると学費をカラ払いしなければならなかったらしい。そんなこんなの事情だったらしいが、なんだかあわただしい。うっかり屋さんである。しかし微笑を禁じ得ない。その後の彼の韓国との交流展等における活発なコミットメントを見れば、韓国で過ごした時間は無駄にはならなかったのではないか。現在は滋賀の栗東市というところで制作している。一徹なところをあわせ持ちながら、性まことに鷹揚(おうよう)かつ穏やか、その風貌とも相まって大人(たいじん)の雰囲気ただよう人で、勝手ながら筆者の若い友人の一人と思い定めさせてもらっている。今回が弊館での初個展である。
写真の作品は、白磁の焼〆である。穴窯で焼成した。灰被りのような面持ちだが、熾(おき)に埋めるようにして焼いてある。白磁でありながら窯変のような様相で、付着あるいは熔けた灰や火色がさまざまな色相を見せている。パステル調に多彩である。そして、二点とも超薄手である。1ミリくらいだろうか。いやそれ以下かもしれない(作品の大きさにもよるが)。身を鴻毛(こうもう)の軽きに致すというが、まさに手取りは鴻毛のごとしで軽すぎるほどに軽い。鋳込みで成形したあと、間一髪のところまでカンナで削りに削っている。均一に削らねばならないだろう。湿っている状態で削るという。写真奥の卵形の壺は、上部が山並みを描くようにうまい具合に変形している。聞けば上半分ほど熾から露出していたからこうなったらしい。熾のなかは酸素が少ない。還元状態で温度が低い。出ている部分は高い。だからこの温度差による変形なのだが、ひしゃげたといった印象ではなく、心にくい景色となっている。作為三分、偶然七分といったところか。それにしても彼の場合、焼成までの神経が消耗するような丹精極まる成形プロセスを思えば、変形なしにもとの姿のままで窯出しまで持って行きたいと思わないのだろうか。怪訝に思うのである。写真手前の瓶は、熾に完全に埋まっていたから変形しなかったのだろう。無事である。
写真の作を見ていると、二点とも、際々の、ぎりぎりの剣呑なところからの生還を果たしたような相貌をしている。窯のなかで火は、水の死を生き、土の死を生き、木の死を生きる。その交錯のなかで、最後に火の死の恩恵を享受したようなとでも言おうか…。松本は焼成がおもしろいという。さもありなん。上述の壺もいわばフォルムにおける窯変ともいえる。また、この世のものすべてはいずれ壊れゆく定めにあるが、その無に帰すべきフラジャイルなもの、そういった絶対必然への予感といったものに対する挑戦というか、ちょっと抽象的で形而上的なようだが、そのようなことも心にとどめて作っているという。その言と作風が合致していると思うのである。
どうも松本は危うきところに遊ぶ人のように思われる。あそこまで超薄手の、それも磁土を用いた困難な造形を、高火度の窯のなかへ放り込むようにして入れてしまう。もちろんそれが出来るのは、彼らしいゆっくりとした、かつ緻密な経験値の積み重ねあってのことだろうが、その努力の甲斐あってか、近頃の彼は、危うき遊びを遊べる遊び人になりつつあるように思う。このこと、芸術の人にとっては肝要である。最近彼はせり上がってきているように思う。いまだ新進ともいえる歳である。大きく期待したく思い云爾(しかいう)。-葎-
今展では、超薄手かつ堅牢なる器物系も出展されることと思います。
何卒のご清賞をよろしくお願い申上げます。
松本 治幸 Matsumoto Haruyuki
1983 鳥取県生まれ
2006 韓国 国立ソウル産業大学 陶磁文化デザイン科退学
2008 京都精華大学 芸術学部造形学科陶芸専攻卒業
2010 京都精華大学 大学院芸術研究科修了
個展
2011 ギャラリー白(大阪)
2014 ギャラリー恵風(京都)
2014 滋賀県立陶芸の森 陶芸館ギャラリー
2014 ギャラリー白(大阪)
2015 髙島屋京都店工芸サロン
2016 -Feather Light- pragmata gallery(東京)
2017 市之倉さかずき美術館 ギャラリー宙(岐阜)
2019 ギャラリー器館(京都)
グループ展・公募展
2007 日韓若手陶芸作家交流展 gallery G(広島)
2008 第八回国際陶磁器展美濃 岐阜県現代陶芸美術館
2008 中日韓現代陶芸新世代交感展 広東陶磁器博物館(中国佛山)
2008 第46回朝日陶芸展
2008 韓日若手陶芸作家展-Contact- ヘイリー芸術村(韓国)
2009 World Ceramic Art Jamboree 驪州世界陶磁センター(韓国)
2009 アジア現代陶芸-新世代の交感展- 愛知県陶磁資料館
2010 懐石のうつわ展 ギャラリー器館(京都)
2010 フタのある形partⅡ ギャラリーヴォイス(多治見)
2010 伊丹国際クラフト展 伊丹市立工芸センター
2011 佐加豆岐の展パートⅣ ギャラリー器館(京都)
2011 それぞれの炎展 ギャラリー器館(京都)
2011 第九回国際陶磁器展美濃 岐阜県現代陶芸美術館
2012 美京都なかむら ギャラリーなかむら(京都)
2012 以美為用展 高島屋京都店美術画廊
2012 伊丹国際クラフト展 グットマテリアル賞 伊丹市立工芸センター
2013 以美為用展 高島屋京都店美術画廊
2013 日韓陶芸交流展 ギャラリーマロニエ(京都)
2014 陶芸の提案2014-Line- ギャラリー白(大阪)
2014 日韓陶芸交流展 ヘイリー芸術村(韓国)
2014 第十回国際陶磁器展美濃 岐阜県現代陶芸美術館
2014 Goseoung Raku Ceramic Festival 2014(韓国)
2014 「その方も乙よのう」へうげ十作陶芸展 日本橋三越本店
2015 陶芸の提案2015-今見えているもの- ギャラリー白(大阪)
2015 佐加豆岐の展パートⅦ ギャラリー器館(京都)
2015 HYOUGEMONO Espace Japon(フランス)
2015 「没後四百年古田織部展」佐川美術館ミュージアムショップ(滋賀)
2016 陶芸の提案2016-用を放擲して- ギャラリー白(大阪)
2016 Nami Island internationall ceramic festival(韓国)
2017 陶芸の提案2017-必然- ギャラリー白(大阪)
2017 2017 Harmony international Ceramic Friendship(韓国)
2017 「第三回にっぽんいい酒いい肴」西武池袋本店
2017 Qingdao YuYao Ceramic Museum opening workshop(中国青島)
2017 「煎茶するほど仲が睦い」伊勢丹新宿本店(東京)